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特許協力条約(Patent Cooperation Treaty:PCT)に基づく国際出願の概要

国際的に特許を取得するための手続きとして、多く利用されている方法の1つが特許協力条約(PCT)に基づく国際出願を行う方法です。国際出願に際して翻訳文は不要であって日本語で出願することができ、1つの国際出願で世界中の殆どの国を網羅するように特許出願することも可能です。従来は、パリルートによる優先権を主張する個別の出願が行われておりましたが、PCTでは優先日から約2年半(30乃至31ヶ月)は指定国に何も書類を提出する必要がないという国際出願の最も優れた利点を活用するように、その利用者は増加する傾向にあります。

国際出願の利用状況

国際出願は、電子出願と電子出願による割引制度、全加盟国についてのみなし全指定制度、優先日から30ヶ月とする国内段階への移行期限、さらには権利化についての見解書を国際調査報告と共に発行などの各改正を経て従前にも増して利用し易くなってきており、日本からの利用者も年々増加しております。具体的なデータでは、国際出願の数は2006年には、147,500件となり前年よりも7.9%増加しております。特にアジア地域での出願数が増加しており、中国、日本、韓国からの出願は世界の25%にも達しています。また、PCTを利用して国際出願された数を国別に調べてみると、2006年では米国が第1位で50,089件、第2位が日本で26,906件、第3位がドイツで16,866件、第4位がフランスで6,109件、第5位が韓国で5,935件、第6位がイギリスで5,064件、第7位がオランダで4,452件、第8位が中国で3,910件です。

特許協力条約とは

特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)とは、特許・実用新案の分野において、各国特許庁及び出願人(Applicant)の労力を軽減し、発明の保護の取得を簡易かつ経済的なものにすることを目的として1970年6月に米国ワシントン特別区にて調印された国際条約です。PCT国際出願(特許協力条約に基づく国際出願)では、出願人が選択する言語で且つ条約上統一された様式(フォーマット)を利用して特許を1つ出願する場合には、該出願の際の各指定国に適法に同時に出願されたものとして扱われ、国際調査や国際予備審査、国際公開などの特許審査における初期の段階の処理を国際段階という名称で(各国ごとではなく)まとめて進めることで、各国毎の重複した方式審査や予備的な調査などを省き、最終的には各国での権利化に結びつけることが可能となります。現在の特許協力条約の加盟国は、137ヵ国(2007.3.15)であり、ほとんどの国が含まれるように規定されています。逆に、現在PCTで指定できない国を挙げると、台湾、ブルネイ、タイ、アルゼンチン、ボリビア、チリ、パナマ、ウルグアイ、モーリシャスなどがあります。

国際出願制度の利点

国際出願の最大のメリットは、1つの国際出願をするだけで世界中の137の各加盟国に出願したと同じ法的な効果が得られることです。このような効果が得られるために、慌ててどの国に特許を出すのかを判断する必要はなく、優先日から30(31)ヶ月という期間でどの国で特許を取得すれば良いかを判断すれば良いことになります。優先権を主張するパリルートを利用した場合との比較で考えてみると、パリルートの場合には先の出願から12ヶ月という期間内にどの国に出願するかを選択することになりますが、PCTの場合には、優先日から30(31)ヵ月という期間内で選択することになります。その差は実に18ヶ月もあり、例えばどの国に出願すべきかが先の出願から12ヶ月の時点で流動的な場合には、とりあえずPCT国際出願をしておけば特許の取得が望まれる国の大半に出願したと同じ効果を得ることが可能です。外国出願の場合には、一旦出願手続きを開始すれば現地代理人の費用や出願国の特許出願料などがかかるため、特許を取得しようとする国を選択するのには十分な時間をかけることが望ましいと思います。優先権を主張するパリルートでは、12ヶ月で国を選択するために、その時点では各国の特許が未だ公開されていない場合(通常、出願から18ヶ月で公開)が多く、出願後に外国で先に他人が出願していることが見出されるケースも発生します。PCT国際出願では、優先日から30(31)ヵ月という期限の国内段階への移行手続きがその同盟国への実質的な出願手続きとなるため、公開された文献や国際調査報告や見解書などを参考にしながら確実に手続きを進めることができます。

国際出願の対象

国際出願の対象となるのは、保護を求める発明や考案です。具体的な保護対象となるのかどうかは各国で判断されるので、国際段階では実体的な内容までは特許協力条約では規定されておりません。1つここで重要な点は、発明の単一性(Unity)の問題です。国際出願においても国内の出願と同様に一発明一出願の原則があり、一つの出願で包括できる範囲は限定されています。よく国際出願などの外国出願を行う場合に、国内出願を複数件まとめて外国出願用の書類を作成することがありますが、発明の単一性を満たすため、無理やり新規性のない上位概念で包括する作業をした場合には、その部分を無視して最小限の範囲で調査報告が作成され、残りの部分は追加の調査手数料の支払いを求められたりすることがありますので、単一性を考慮しながら書類を作成することも必要となります。

国際出願を出願できる人

国際出願をすることができる人は、特許協力条約の締約国の居住者及び国民であり、更には締約国において現実かつ真正の工業上又は商業上の営業所を有する場合には当該締約国に住所を有するものとみなされ、締約国の国内法令により設立されている法人は当該締約国の国民とみなされます。

また日本の特許庁を受理官庁とする場合の制約としては、少なくとも出願人の中の1人が日本国民または居住者であれば、日本の特許庁を受理官庁とすることができます。更に選択により、直接スイスの国際事務局に対して出願する方法もあります。

国際出願に必要な書類

国際出願に際しては、願書(REQUEST)、明細書(DESCRIPTION)、請求の範囲(CLAIMS)、図面(DRAWINGS)、要約書(ABSTRACT)などを出願書類として準備する必要があります。特許事務所で出願する場合には、パソコン出願やインターネット出願(PCT−RO・XMLコンバーター使用)により電子情報として出願される場合がほとんどと思いますので、出願書類は全て電子的なファイルとなり必要なファイルを特許庁に送信することで国際出願を行ったことになります。電子的に出願しない場合としては、紙書類かFAXで出願する方法や、PCT−SAFEで作成した書類をフレキシブルディスク(FD)で提出する方法もあります。

願書は、概ね特許庁の配布するソフトウエア(例えば、PCT−RO電子出願願書やPCT−SAFE)に従って進めることで完了するように構成されています。主な願書の記載事項としては、書類記号(Attorney's Docketing Numberに相当)、発明の名称(Title of Invention)、出願人の名称(名前)と所在地(Name and Address of Applicant)、発明者の名前と住所(Name and Address of Inventor)、代理人の名前と所在地(Name and Address of Agent)、指定国(Designations)、優先権情報(Priority Claim)、出願言語(Language of Filing)、手数料計算(Fee Calculation)、申立(Declaration)、などの情報を入力します。この願書の作成時では、既に作成済みの明細書、請求の範囲、図面、要約書をソフトウエア上で選ぶ必要があります。

国際出願の効果

適式な国際出願を受理官庁(Receiving Office)に提出することで、国際出願が出願されたものとみなされ、みなし全指定を用いた指定形式の場合、除外した国を除いて全部の加盟国に出願したものとみなされます。適式な国際出願として国際出願日に提出が受理される出願は、出願人の適格があり、所定の言語で作成され、国際出願をする意思の表示、少なくとも1つの締約国の指定、出願人の表示、明細書及び請求の範囲と外見上認められる部分を含むものとされています(特許協力条約第11条)。これらは前述の特許庁の配布するソフトウエアを用いて作成する限り欠如することはないと思われます。

一度国際出願が受理されればその時点で願番(Filing Number)が付与され、、国際出願日から約2週間で調査用写しの受理の通知がなされ、補完・補足手続きなども必要に応じて行われます。この調査用写しの受理通知から3ヶ月(または優先日から9ヶ月のどちらか遅いほう)の期間で次に説明する国際調査報告及び見解書が作成されます。また、優先日から18ヶ月というタイミングで国際公開もされます。国際出願したことにより、特に追加の手続きを必要とせずに国際調査報告及び見解書、あるいは国際調査報告を作成しない旨の決定通知などが出され、国際公開なども特別な手続きを必要とせずに行われます。すなわち、PCTのシステムの中で国際調査報告や国際公開は、国際事務局や調査機関によって進められることを大前提としていますので、特にこれらを妨げるような事情がなければ勝手に進められて行く手続きとなっています。ところが、国内段階への移行手続きは自動的に進められる手続きではなく、出願人側が翻訳文などの必要な書類を準備して各国の手続きを進めるようになっています。これは、国際出願の効果としてみなし全指定を行ったとしても、一種の追認行為のような国内書面の提出がなければその国に関しては特許取得のための書類が揃わないことになり、その国では権利取得はできないことになります。

国際調査(International Search)とは

国際出願した場合に所要の国際調査機関(International Searching Authority)では、その出願に関連した先行技術を探し出すように特許文献などの資料が調査され、その調査結果についての国際調査報告(International Search Report)と、特許要件についての見解書(Written Opinion)が作成されます。国際調査機関は可能な限り多くの関連のある先行技術を発見するように努めるものとされ、PCT規則34に定める最小限資料を調査することが義務付けられています。国際調査報告は英語で作成されていない場合には英語の翻訳が作成されます。

国際段階で出願人は調査報告と共に作成される見解書によって特許取得の可能性を探ることができます。ところが、この見解書に記載される特許要件(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)は、調査対象の請求の範囲についての見解に過ぎませんので、仮に見解書では特許可能性について否定的であった場合でも、請求の範囲の補正などによって最終的には各国で特許を得ることも十分可能です。PCT国際出願に慣れていない方の中には特許性を否定されたことで国内段階への移行自体も辞めてしまう方もいますが、見解書は発明全体に対して提示されているのではなく、現状の発明の定義に仕方についての見解を出しているに過ぎないと考えて良いと思います。従って、発明の定義の仕方を変えることで、異なる見解を引き出すことも可能です。

このような請求の範囲についての補正の機会の1つとして、国際事務局(International Bureau)に対して行う条約19条補正があります。条約19条補正は国際調査報告から2ヶ月又は優先日(優先権の主張の基礎とした最初の出願の日)から 16ヶ月の遅い方までに、請求の範囲を1回だけ補正できるもので、一部の無駄な請求項の整理のための補正や、各国でばらばらの補正をせずに国際段階で統一した補正が望まれる場合には行うメリットがあるものと思います。また19条補正はオフィシャルな料金がかかりません。この19条補正は必ずしななければならないものではなく、例え見解書の特許性が否定的であっても、19条補正を行わずに各国でそれぞれ補正を行う方法もあります。条約19条補正を行った結果、再度調査機関により見解書が作成されることはありません。条約19条補正には、その補正が明細書及び図面に与える影響がある時、簡単な説明書(brief Statement)を提出することができます。また、国際調査見解書に対しては、直接反論することはできませんが、非公式コメント(Informal Comment)を提出して反論を示すことが可能です。この非公式コメントは条約19条に基づく補正と同時に提出することも可能です。

国際公開(International Publication)とは

国際公開とは、国際事務局が特許協力条約に基づく国際出願の内容を優先日から18ヶ月の時点で公報の形式で世界に向けて公開することを指します。国際公開は出願人によって出願された内容の全文テキスト及び必要な図面、国際調査報告、条約19条補正、さらには申し立てなどを含みます。ただし、調査機関の作成する見解書は原則として国際公開されません。原則として、国際公開の効果は、指定国の国内における未審査出願公開と同じ効果をもつべきものとされています。

もし国際出願の言語が、国際公開言語である8つのアラビア語、中国語、英語、フランス語、ドイツ語、日本語、ロシア語、又はスペイン語のいずれかである場合には、国際公開はその出願の言語で行われます。なお、国際出願が、国際調査を行う国際調査機関が認めた言語であるが、国際公開の言語ではない言語でなされた場合(現在、オランダ語、韓国語及び特定の北欧語で国際出願がなされた場合が該当します)には、出願人により提出された翻訳文の言語で公開されます。当該翻訳文の言語は、受理官庁としての国際事務局が認める言語(中国語、英語、フランス語、ドイツ語、日本語、ロシア語、又はスペイン語)である必要があります(PCT規則12.4)。さらに、国際出願の国際公開が英語以外の言語で行われる場合には、書誌的事項と調査報告については英語でも国際公開されます。

なお国際事務局に対しては、手数料を払って国際公開の時期を早めることも請求できます。日本への国内移行のために翻訳文が提出された外国語特許出願については、国内書面提出期間の経過後に国内公表が行われます(特許法184条の9)。これは日本の出願公開の効果を外国語特許出願についてもたせるための手続きですので、補償金請求権は外国語特許出願については国内公表の後、日本語特許出願については国際公開の後となります(特許法184条の10)。


世界知的所有権機関(WIPO)

国際予備審査(International Preliminary Examination)とは

国際予備審査は、請求の範囲に記載された発明について新規性、進歩性(非自明性)、及び産業上利用可能性についての予備的で拘束力のない意見を提示することを目的としています。国際予備審査は国際調査と異なり国際予備審査の請求がされた場合だけに行なわれますので、予備審査請求をしなければ国際予備審査が行われることはありません。先に説明した国際調査機関での見解書が不利な引用例や特許性について否定的な記述を含んでいる場合には、国際予備審査請求を行って答弁書を提出して反駁するとともに、34条補正として請求の範囲、明細書、図面に対して補正を行って、国際予備審査結果を肯定的なものとした上で、各指定(選択)国で特許取得をしやすくさせることも可能です。19条補正と比べて、明細書や図面についても補正でき、補正回数も1回限りというわけではないので、19条補正よりは34条補正の方が補正自体の柔軟性が高いと言えますが、予備審査手数料(36,000円)及び取扱手数料(17,400円)がかかりますので、利用頻度はあまり高くありません。

国際段階から国内段階への移行手続

国際出願をした後に行われる最も重要な手続きは、国際段階(International Stage/Phase)から国内段階(National Stage/Phase)への移行手続と思います。通常国内段階への移行の際には、現地代理人を選定し、どの国際出願についての国内段階への移行なのかの情報を送り、現地で特許出願の翻訳を依頼しない場合には、こちらで翻訳文を作成して送るようにします。この国内段階への移行手続は、パリ優先権を主張したパリルートの外国出願手続と大差がない手続となりますが、最初の出願から起算してパリルートの場合は12ヶ月を期限として外国官庁に書類を提示するのに比較して、PCTルートの場合には30ヶ月(または31ヶ月)で外国官庁に書類を提示することになりますので、時間的な余裕がある手続となります。

指定官庁(Designated Office)、選択官庁(Elected Office)ごとの移行期限の一覧表はhttp://www.wipo.int/pct/en/texts/pdf/time_limits.pdfを参照して下さい。現状では、US(米国)、JP(日本)、CN(中国)、CA(カナダ)、メキシコ(MX)、OA(アフリカ知的財産権機関[OAPI])などが30ヶ月の移行期限、EP(欧州共同体)、KR(韓国)、IN(インド)、EA(ユーロアジア広域)、AP(アフリカ地域産業財産権機関[ARIPO])などが31ヶ月の移行期限となります。なお、欧州共同体については、欧州特許条約(European Patent Convention)があり、欧州特許庁に欧州特許出願をし審査を経て特許となったものは、自国の特許と同じ効果を持ちます。

特許協力条約(PCT)の加盟国

PCT加盟国の一覧表 http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/kokusai/kokusai2.htm

2009年3月現在、141カ国あります。逆に、現在PCTで指定できない主な国を挙げると、台湾、ブルネイ、タイ、アルゼンチン、ボリビア、パナマ、ウルグアイ、モーリシャスなどがあります。

優先権証明書の提出

PCT国際出願の際に優先権を主張する場合には、国際事務局に優先権証明書を送る必要があります。オンライン出願/インターネット出願の場合には、願書の作成時に“出願書類の認証謄本を作成し国際事務局へ送付することを受理官庁に対して請求する”のところのBOXにチェックを入れて、3日以内に手続補足書に優先権証明願と委任状を添付して提出することができます。このような方法の他に、優先権書類提出書にて認証のある優先権証明書を受理官庁に提出する方法や、優先権書類送付請求書に優先権証明願(PCT)を添付して受理官庁に提出する方法もあります。送付請求による場合には、特許庁が作成した優先権証明書が国際事務局に直接送付されることになります。

なお、パリルートでの外国出願の中でも、米国に関しては、平成19年7月から、日本国特許庁と米国特許商標庁との間で、パリ条約に基づく優先権主張を伴う特許・実用新案出願について、その優先権書類データを電子的に交換することが合意されていますので、優先権証明の提出が不要になります。