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特許弁護士[パテントアトーニィ]
しばしばアメリカで日本の弁理士についての話になった時や、日本人とアメリカの専門家についての話になった時に思うことになりますが、どちらも自国の尺度を以って異国の専門家の地位や資格取得の困難性を図ろうとしますが、自国の尺度だけでは理解できないような社会や文化の違いがあり、説明はしたけど分かって貰えたかが分からないことも時々あります。
先ず、日本の資格ですが、特許については弁理士制度があり、そして弁護士制度もあります。弁理士は特許庁の主催する弁理士試験によって選抜される専門家であり、試験選抜以外では例外的に所定の年数(確か7年)特許庁の審査官若しくは審判官であった方も弁理士になれます。筆者が資格取得したころの弁理士試験は約3000人ほどの年1回の試験を受け、合格は約70人程度でしたが、最近では受験者数は10000人程度で、合格者は500〜600人というように合格者は増えてきているものの、相変わらずの難関(5〜6%)という内容です。また、弁護士も従来はご存知のように難関な司法試験によって選抜されてきておりましたが、最近では欧米の方式を模したロースクールがあり、ロースクールの卒業生による新司法試験の2006年度では2000人程度が受験して約半分の1000人が合格するというような形になってきております。ここまでの説明でお分かりの方もいるかもしれませんが、日本人が資格者の資格取得の困難性、実務や地位などを考える場合に何人受けて何人合格するという“合格率”が最も重要で、実務自体の継続性や競争などはむしろ後回しで話をしていることが多いように思います。
次にアメリカの法曹システムですが、弁護士は全米に数多くのロースクールではっきり言って大量に生産されているとも言えない事はないのですが、もう少し詳しく説明すると“ローディグリー(Law Degree)"と言う学位を全米のロースクールは卒業生に与えており、そのローディグリーを持たせるということ自体に、ある種の競争を忍耐を以って耐えて修行を終えた者に対する賞賛を込めているように思います。すなわち、日本では合格率というある意味で一発勝負の結果を重視していますが、アメリカは修行のためのプロセスを終えたかどうかが重要で、実際に弁護士にならなくとも、ローディグリーはその人の評価として賞賛されているのがアメリカ社会です。このようなアメリカ社会が成立している背景としては、まず米国法曹協会(American Bar Association)によるモニターによってロースクールの授業なり単位認定などが厳しくルール化されており、有名なロースクールであってもほぼ無名のロースクールでも授業の質などはどこでも比較的に高い水準を維持するように工夫されています。また、アメリカでは日本と違い弁護士になったからといって収入が保証されていません。ロースクールの卒業生でもレストランの店長やタクシードライバーになったりは良く起こることであり、弁護士になりたくてもなれない場合だけではなく、弁護士資格を有した主婦、社長、代議士、プロフットボールのQBなど弁護士資格者の実際の職業は日本よりも遥かにバラエティに富んでいます。アメリカは日本とは格段に違う訴訟社会を形成していますので、同じ弁護士といっても、成功して年収も桁違いの弁護士もいれば全く食えていない弁護士もいます。ロースクール自体がその競争状態にありますので、3年の修行を終了せずに実に何割かのロースチューデントは見切りをつけてドロップアウトします。
日本人とアメリカの専門家についての話になった時、通常日本人は司法試験の合格率だけで難関かどうかを判断しますのでそれは各州ごとの試験で50〜80%だというと、簡単な試験であると思う人が多いと思います。試験を受けられるまでにたどり着けない場合がかなり多いということが想像し難いためかとも思いますし、日本の社会の枠では無理も無いと思います。ただ各州の合格率をそのまま日本の試験制度に当てはめて考えることはやや短絡的と思います。
アメリカの特許弁護士は、通常の弁護士(ロースクールを卒業して州の司法試験に合格して登録した者)が更にPatent Barと呼ばれる日本の弁理士試験のような特許手続きに関する試験に合格して初めて特許弁護士となります。弁護士でない普通の者がPatent Barを合格するとPatent Agentとなりますが、弁護士がPatent Barを合格すると特許弁護士(Patent Attorney)となり、Patent Agent、Patent Attorneyともに米国特許商標庁にUSPTOに対する手続きは可能です。また先にPatent Agentの登録をして州のBarExamに合格しても特許弁護士となります。さて、アメリカの特許弁護士ですが、これが日本の弁理士に該当するのかどうかが、実は議論の分かれるところと思います。形式的は、米国特許弁護士は先ほどのローディグリーがあるということを重視していますので、AIPLA(American Intellectual Property Law Association)では日本の弁理士は外国実務家としては登録できますが、AIPLA正会員としては登録できないように扱われています。なお、日本の弁護士は、司法研修の部分があるためと思いますが、AIPLA正会員として登録できます。しかし実質的なところは、プロセキューションをメインにやっているアメリカの特許弁護士の仕事内容は日本の弁理士の仕事内容と全く変わるところはありません。しかし年収の比較では、ここにAIPLAの2007年の経済調査(Economic Survey)がありますが、法律事務所パートナーは平均344,500ドル、個人開業では平均200,000ドル、アソシエイトでは平均152,677ドル、エージェントは平均118,264ドル、でちなみに米国の審査官は平均83,750ドルです。法律事務所パートナーの経験年数ごと平均では、5年以下は162,600ドル、5〜6年が257,308ドル、7〜9年が278,135ドル、10〜14年が380,559ドル、15〜24年が519,937ドル、25〜34年が540,362ドル、35年以上が490,107ドルとなっています。50%以上の専門分野別の年収では、バイオが466,437ドル、化学が392,031ドル、コンピューターハードウエアが572,286ドル、コンピューターソフトが465,593ドル、電気が451,196ドル、機械が343,795ドルとなっており、地域別平均年収ではボストンが490,107ドル、ニューヨークが608,634ドル、ワシントンDCが531,322ドル、シカゴが439,659ドル、ロサンジェルスが497,608ドル、サンフランシスコが619,208ドルです。特許は弁護士の実務分野としても専門性の高い特殊な分野として知られており、且つ見入りの良好な実務分野としても有名です。
次にアメリカ人と日本の弁理士資格を話題について話すときにも、一般的に、アメリカ人は自国の尺度で考えます。日本の弁理士は、確かにローディグリーは必要なく理系の学位は持っていてもローディグリーは持っていない人が多いと思います。また技術系でない文系弁理士が技術のバックグラウンドがないけど日本の弁理士だというと日本の事情をあまり良く知らないアメリカ人実務家は通常不思議な顔をします。アメリカの実務家と日本の弁理士の間で例えば会議や出張で話をする場合は、実質的に同じ仕事をしているので、話は実務レベルであり、端的にはお客さんであったりしますので、特に相手の学位がどうのこうのという展開にはあまりならないのだと思います。
最後に、弁理士業務に競争原理を働かせるために合格者を増加させるのは間違いではないと思いますが、競争の結果、倫理面や実務レベルを引き上げることも同時に必要ではないかと考える次第です。また、合格者数の引き上げの要因は、単純に日米の専門家数を人口で割ったデータを根拠にしていると思われますが、専門家を雇うために使われる金額も日米比較で考えるべきであり、弁理士の平均年収830万円前後とされていますが、米国の特許実務家やパテントエージェントと比べてもかなり低い水準と言わざるを得ず、少なくとも優秀な若者を業界内に引き止めるような構造にしなければ米国の如き業界の繁栄は遠いのではと思います。
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