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パリルートとPCTルート

外国出願にパリルートとPCTルートのどちらかで出願をしたら良いのかは、依頼人の立場に立ってみると判断に迷うところとは思いますが、その判断を下す時期は、通常先の国内出願から12ヶ月の時点でやってきます。外国への出願方法としては次のように大別できます。

先に出願した国内出願がある場合には、

  • 優先権を主張して翻訳文等を特許を取得しようとする各国に送って手続きする。(パターンI)
  • 優先権を主張して日本語で国際出願する。(パターンU)
  • 優先権を主張して英語で国際出願する。(パターンV)

先の出願がない場合には、

  • 直接特許を取得しようとする国に書類を送る。(パターンW)
  • 日本語若しくは英語で国際出願をする。(パターンX)

先の出願がない場合はひとまず例外といたしまして、先に出願した国内出願がある場合のパターンT〜Vの類型について以下の各観点から優劣を比較してみたいと思います。

権利化までの時間

パターンIの優先権を主張して翻訳文等を特許を取得しようとする各国に送って手続きする場合では、各国の出願の後は、各国ごとの手続きになりますので、権利化までの時間経過は各国ごとの審査の進行状況に依存します。これに対して、国際出願を利用するパターンU、Vの方法では、国際出願の国際段階の期間分だけ指定国への書類提示が実質的に遅れることになりますので、仮に移行期限の優先日から30ヶ月ぎりぎりで移行手続をする場合には、約18ヶ月ほど遅い手続きになります。ただし、国際調査報告は各国の審査においても有力な資料となるため、審査の期間は短くなることが予想されますし、英語の国際出願(パターンV)を行って調査機関を欧州特許庁に指定した場合では、欧州共同体を指定した場合の通常の審査前の調査部分を省略できますので、その分早い権利化も可能です。国内段階への移行は、移行期限の優先日から30ヶ月まで待つ必要はなく、また指定国ごとに移行のタイミングを変えることも可能ですので、権利化が重要な指定国には早期に移行手続を行えば国際出願でもパリルートの出願からそれほど遅れていない手続となります。

出願国決定のタイミング

パターンIの優先権を主張して各国に翻訳文等を送って手続きする場合では、各国に書類を送る際に出願国を決めていますので、出願国を決めずに手続をすることはありません。一方、国際出願(パターンU、V)の場合には、みなし全指定が可能ですので、移行期限の優先日から30(31)ヶ月まで実質的な出願国を決めずに進めることができます。先の国内出願から12ヶ月の優先期限の時点で、どの国に出したら良いのか決めかねている場合には、PCTによる国際出願を選ぶ方が良いように思います。但し、PCT国際出願では出願ができない国(台湾、タイなど)での権利化を希望の場合には、PCT国際出願と共に或いは別にそれらの国に出願をすることが必要となります。

権利化までの情報

国際出願(パターンU、V)を利用した場合には、国際調査機関による調査報告が作成され、さらに見解書により特許性についての見解も得られることになります。パリルート(パターンT)の場合には、欧州特許出願を行った場合における欧州特許庁の調査報告などを除いて、そのまま審査になります。国際出願(パターンU、V)を利用した場合において、もし見解が否定的で補正によっても所望の範囲での権利成立の見込みがない場合では、国内段階への移行手続をしないでそのまま放置することで、更なる経費の無駄な支出を抑えることができます。また、国際出願では19条補正や34条補正により国際段階で請求の範囲などを調整することができますので、出願時の請求の範囲を全体的に限定する場合ではこれらの補正機会を利用します。

内容の一部変更や補正

優先権主張して外国に出願する場合(パターンT)と、PCTルートによって出願を行い権利化を希望する各指定国に書類を提出する場合(パターンU、V)で、発明の記述内容を調整する、或いは各国毎の特許実務に合わせるという観点で大きく異なることがあり、この点も見逃せないように思います。すなわち、優先権主張して外国に出願する場合(パターンT)では、部分優先や複合優先などのパリ条約上に約束された記述の自由度を以って各国への出願書類を作成できますので、翻訳する場合に、記載が誤りであれば訂正しながら出願することもできますし、内容を追加したり、発明自体を追加して出願することも自由に行うことができます。各国毎の特許実務に合わせた記載や請求項を作成することも可能です。ところが、国際出願の場合には、実質的な各国への書類提示の手続である国内段階への移行手続の際には、パリルートのような自由度は認められておらず、原則的に国際段階にある出願内容をそのまま翻訳して提出するだけの制限された状態におかれます。最近では、請求項の数に応じて大きく出願料も変わることがあるため、国際出願の際の形式で、そのまま補正しないで各国へ移行させた場合には、移行の費用も無駄に高くなる可能性があります。従って、国際出願をする場合には、日本語だからと言って日本の実務に合わせるのではなく、例えば米国での権利化を意図する場合では、独立請求項が3を超えないようにとか、複数従属請求項を作成しないように出願時に配慮する必要があります。すなわち、国際出願で、パリルートのような出願内容の記載の自由度を有しているのは出願の時だけです。

権利化までの費用

中小企業の方や個人の方では費用の面も重要と思います。権利化までの費用については、他の専門家の方のコメントを総括すると、全体ではPCTルート(パターンU、V)の方が高くなると言うのが一般的と思います。確かに単純計算ではPCTルートの方が国際段階が入る分だけ高くなりますが、PCTルートでは一部の費用がかかる時期を遅くしたり、分散させることができます。換言すると、パリルート(パターンT)は一括払いで総額を抑えることができ、PCTルートでは支払いを分散させて分割払いのように進めることができます。総額が安くなるからと言って安易にパリルートを選択すると、外国出願を進めて直ぐの時点で一般的に高額な海外代理人からの複数の費用請求を一度に受けることになります。PCTの方が調査報告や見解書などの状況を見ながら進められる点で、計画的な進め方できると思われます。

また、PCTルートを使うことにより、コスト上のメリットが受けられる場合があり、その1つが国際調査報告を各指定国で利用させることにより国内移行後の調査費用を免除または減額する方法です。英語での国際出願を行い、欧州特許庁を国際調査機関として調査報告を受けた場合では、国内段階へ移行した後の欧州共同体への欧州特許出願の調査費用(現在1000EUR)は無料になります。ちなみに英語国際出願でも日本の特許庁が調査報告を作成した場合には、欧州共同体への欧州特許出願の調査費用は約20%の減額に過ぎないものとなります。また米国でも他の特許庁の国際調査報告があれば、調査費用が100ドル(中小企業、個人は50ドル)減額されます。また、英語での国際出願の場合には、翻訳が米国、EPで不要となる他、例えば中国、韓国などの手続についても英語ベースの翻訳の方が日本語ベースの翻訳費用よりも安くなるなどのメリットがあります。

比較のまとめ

時間、情報、柔軟性、コストの観点で比較した主な項目について下の表にまとめています。

 
 パリルートPCT(国際出願)ルート
時間早い権利化が可能余裕ある選択ができます。
情報各国で対応します。調査報告や見解書を利用できます。
柔軟性出願時に各国の様式に適合させます。19条補正などで一括した取扱が可能ですが、各国の様式の微調整は困難。
コスト総額を抑えることができますが、支払い時期は集中します。国際段階分だけ高くなりますが、支払い時期は分散されます。

一般的に、出願国が1〜3国と決まっていて早めの権利化が希望であればパリルートを選択し、4ヶ国以上の場合やじっくりと慎重に進める方針であればPCTルートの選択となるのではと思います。